「お姉ちゃん!」
私は目を開けない強子姉に再び叫んで、姉の頭部をひしと抱いた。
よかった。
安心と同時に、既に死んでいるかもしれないという不安が、私の脳裏を過ぎった。
息を確かめようと、強子姉の口に手を当てる。
「くかー」
くかー? 息は息でも、寝息やんけ!
私は本気で心配したのが腹立たしく思えてきて、強子姉の頭を軽く叩いた。
べしっ。
「くかっ」
姉の呼吸が一瞬、停止する。
止めの一撃、刺しちゃった?
私が再度の不安に駆られていると、姉の不機嫌な声が遮った。
「何するのよ、みわわ」
強子姉の寝起きは猛烈に機嫌が悪いのだ。
私は、おずおずと状況説明する。
「だって、私が寝てたら、突然、大きな音が聞こえて……。それで、なんだろうって思ってお姉ちゃんの部屋に来たの。電気つけてみたら、お姉ちゃんの首、壁に埋もれてて……。だから助けてあげたんだよ。お姉ちゃんたら、壁と一体化してて、顔が壁全部みたいに見えて、気持ち悪かったんだから……!」
強子姉は特に驚く様子もなく、日常の出来事、といった様子で平然と言ってのけた。
「ああ、寝返りした時に打ったみたい」
「……はぁ?」
なーんだ、寝返りかー。びっくりして損した。
……ってちょっと待てーい!
普通、頭を打ったあと。寝るか? つーか痛くないの? なんで平気そーな顔してるワケ?
いや、それ以前に。姉の後頭部は鉄か。
ベニヤ板をブチ破るなんて、相当に硬いぞ。
これが本当の「頭の固いひと」――ではなく!
人間技じゃない。
この世界に、たかが寝返りで壁に穴を空ける人がいるだろうか?
まあ、この広い世界、一人くらいはいるかもしれない。
まったく、漫画や映画じゃないのに。
しかし結構騒いだ私と姉の事件なのに、うちの両親ときたら、起きてこない。
一階には聞こえなかったのだろうか。爆睡してたのかな。
謎だけが残ったまま、私は部屋に帰って布団に入った。
なんだか目が冴えて眠れなかった。
ちなみに壁の穴はガムテープをして塞いである。
5
私の部屋に差し込んでくる光。
眩しすぎる。
今、何時? 時計を見ると、十二時ちょうど。
いったい何よ……?
カーテンを開けて外を見る。
私は目を疑った。
「強子姉!?」
銀色に光っている、丸い飛行物体。それから姉が降りてくる。
UFO!?
そんな、まさか。
でも、こんな夜中に、ふわふわ浮く様は、UFOにしか見えない。
だって他に説明のしようがない!
円盤から出ている光がら降りてくる人物も、姉にしか見えない。
強子姉は、変人と思ったけど、やっぱり宇宙人だったんだ!
んなアホな。開いた口が塞がらない。
でも、これまでの変な行動を考えると納得がいく。
強子姉は、宇宙人だった! これは調査をしないと。
今日、家族が起きたら聞き込みだ!
試験も近いのに、気になって勉強どころではない。
6
「お母さん、おはよう」
目が大きくて、もういい歳なのに、まだあどけなさが残る童顔の母に言った。
「昨夜、眩しくなかった?」
「何の話?」母はとぼけた様子もない。
「だから、昨日の夜の十二時ぴったしのとき! 窓からすごい光がぁ……」
「光が?」
強子姉が私と母の会話に興味を持ったのか、
「強子姉。話に割り込んでこないでよ」
「光が?」
「しつこいなぁ。私はお母さんとしゃべってるの!」
「光が何? 別に普通に寝てたけど」母の顔に、はてなマークが書いてある。
「あっそう」
私が日頃から姉の被害に遭っているから変な夢を見たのかな。
いや、きっと両親は一階にいたから見えなかった、とか?
うわ、すっごくありそう! 可能性大だな。
いや、待てよ。でも降りてくるのは見えただろう。
じゃあ、やっぱり見えてないとおかしい。
このもどかしさは何!?
7
学校に着いて、強子姉と別れて自分の教室に行く。教室は一階の一番西側にある。
私が教室に入ると、私の親友の珠理以外の三人が振り向いた。私を入れて三年生は五人。教室に机が五個教壇のすぐ前に並べられている。先生が喋っているとき唾が飛んでくる距離である。