おお姉よ!

小学三年生の「みわわ」こと佐藤美和と妹を熱愛する姉、強子の物語。妹の美和が天才にして超変人である姉の重度のシスコンに悩まされる、という顛末を、ドタバタ・コメディータッチで書いた。

「お姉ちゃん!」

 私は目を開けない強子姉に再び叫んで、姉の頭部をひしと抱いた。

 よかった。

 安心と同時に、既に死んでいるかもしれないという不安が、私の脳裏を過ぎった。

 息を確かめようと、強子姉の口に手を当てる。

「くかー」

 くかー? 息は息でも、寝息やんけ!

 私は本気で心配したのが腹立たしく思えてきて、強子姉の頭を軽く叩いた。

 べしっ。

「くかっ」

 姉の呼吸が一瞬、停止する。

 止めの一撃、刺しちゃった?

 私が再度の不安に駆られていると、姉の不機嫌な声が遮った。

「何するのよ、みわわ」

 強子姉の寝起きは猛烈に機嫌が悪いのだ。

 私は、おずおずと状況説明する。

「だって、私が寝てたら、突然、大きな音が聞こえて……。それで、なんだろうって思ってお姉ちゃんの部屋に来たの。電気つけてみたら、お姉ちゃんの首、壁に埋もれてて……。だから助けてあげたんだよ。お姉ちゃんたら、壁と一体化してて、顔が壁全部みたいに見えて、気持ち悪かったんだから……!」

 強子姉は特に驚く様子もなく、日常の出来事、といった様子で平然と言ってのけた。

「ああ、寝返りした時に打ったみたい」

「……はぁ?」

 なーんだ、寝返りかー。びっくりして損した。

 ……ってちょっと待てーい!

 普通、頭を打ったあと。寝るか? つーか痛くないの? なんで平気そーな顔してるワケ?

 いや、それ以前に。姉の後頭部は鉄か。

 ベニヤ板をブチ破るなんて、相当に硬いぞ。

 これが本当の「頭の固いひと」――ではなく!

 人間技じゃない。

 この世界に、たかが寝返りで壁に穴を空ける人がいるだろうか?

 まあ、この広い世界、一人くらいはいるかもしれない。

 まったく、漫画や映画じゃないのに。

 しかし結構騒いだ私と姉の事件なのに、うちの両親ときたら、起きてこない。

 一階には聞こえなかったのだろうか。爆睡してたのかな。

 謎だけが残ったまま、私は部屋に帰って布団に入った。

 なんだか目が冴えて眠れなかった。

 ちなみに壁の穴はガムテープをして塞いである。

   5

 私の部屋に差し込んでくる光。

 眩しすぎる。

 今、何時? 時計を見ると、十二時ちょうど。

 いったい何よ……?

 カーテンを開けて外を見る。

 私は目を疑った。

「強子姉!?

 銀色に光っている、丸い飛行物体。それから姉が降りてくる。

 UFO!?

 そんな、まさか。

 でも、こんな夜中に、ふわふわ浮く様は、UFOにしか見えない。

 だって他に説明のしようがない!

円盤から出ている光がら降りてくる人物も、姉にしか見えない。

 強子姉は、変人と思ったけど、やっぱり宇宙人だったんだ!

 んなアホな。開いた口が塞がらない。

 でも、これまでの変な行動を考えると納得がいく。

 強子姉は、宇宙人だった! これは調査をしないと。

 今日、家族が起きたら聞き込みだ!

 試験も近いのに、気になって勉強どころではない。

   6

「お母さん、おはよう」

 目が大きくて、もういい歳なのに、まだあどけなさが残る童顔の母に言った。

「昨夜、眩しくなかった?」

「何の話?」母はとぼけた様子もない。

「だから、昨日の夜の十二時ぴったしのとき! 窓からすごい光がぁ……」

「光が?」

強子姉が私と母の会話に興味を持ったのか、

「強子姉。話に割り込んでこないでよ」

「光が?」

「しつこいなぁ。私はお母さんとしゃべってるの!」

「光が何? 別に普通に寝てたけど」母の顔に、はてなマークが書いてある。

「あっそう」

 私が日頃から姉の被害に遭っているから変な夢を見たのかな。

 いや、きっと両親は一階にいたから見えなかった、とか?

 うわ、すっごくありそう! 可能性大だな。

 いや、待てよ。でも降りてくるのは見えただろう。

 じゃあ、やっぱり見えてないとおかしい。

 このもどかしさは何!?

  7

 学校に着いて、強子姉と別れて自分の教室に行く。教室は一階の一番西側にある。

 私が教室に入ると、私の親友の珠理以外の三人が振り向いた。私を入れて三年生は五人。教室に机が五個教壇のすぐ前に並べられている。先生が喋っているとき唾が飛んでくる距離である。

 刹那、いつも私を恐怖や孤独から救ってくくれる光が、絶望の光となって私を貫いた。

「お姉ちゃん!」

 私は涙をポロポロ流しながら強子姉の頭を壁から出そうとする。

 幸い、出血はしていないようだ。

 壁はベニヤ板だろうか。

「死なないで! 死なないで!」

 深夜の静寂の中、幼い私の高い声が、空気を裂いて響く。

 バキバキ……ボコ。

 という最後の強烈な破壊音で強子姉の頭部を救出した。

「お姉ちゃん!」

 私は目を開けない姉に再び叫んで、強子姉の頭部をひしと抱いた。

   3

 いつも学校へ歩いていこうとすると強子姉が

「ねぇ、美和わ~、手ぇ繋いで歩こ?」

 と、おねだりしてくる。

 手を繋いで歩いていると

「お姉ちゃん、妹思いね」

なんてご近所(といっても隣の家は五百メートルくらい離れている)さんたちに、よく言われる。本当は強子姉が甘えてきてるんだけど。学校は歩いて一時間のところにある ド田舎のため学校の生徒数は少ないわ遠いわで四苦八苦なのだ。強子姉が私を「みわわ」とよんでいるものだから、入学初日に見られて以来、学校のみなから「みわわ」とよばれている。

 全校生徒が三十六人しかいなくて、すぐにその話は伝わった。

 あの子が誰々を好きだとか、あの子とあの子が付き合ってるとか、そういう話は村中に広まる。

 悲しいことに、ド田舎にプライバシーはない。

 私にも、そういった噂を聞いた経験がある。

 特に強子姉に関しては、友達に「可愛くて優しくて思いやりのあるお姉ちゃんがいて、羨ましい」と見えているらしい。

 いや、真実を知らないとは。知らぬが仏に越したことはないだろう。

突然、手紙を貰ったことがある。

 私にかと思ったら、「強子先輩に渡してください」と来たもんだ。

 とにかく人気のある姉なのだ。

 シスコンって皆が知ったら、どうするんだろう。いや、もうすでに知られているのかもしれない。

 私が強子姉に手紙を届けに行くと、

「わたくしのかわゆい妹、みわわから手紙!?お姉ちゃん、嬉しくて泣きそうだわ~」

 強子が私のスカートのポケットから素早い手つきで手紙を取ると、

「なんだ。みわわからの手紙じゃないの!?つまんなーい。それより、みわわと、もふもふしたい~」いやーいやーと首を左右に振りながら言う。

「学校でしないでよ! 絶対! 変態姉妹と思われるからね!」

「なによ、それ。お姉ちゃんは、ただ、みわわを愛してるだけなのに~」

 ハンカチを目に当ててよよよ、と泣く仕草をする。

 私にしてみれば背筋が凍るようなポースだ。気持ち悪い以外のなにものでもない。

「捻じ曲がった愛は要らん」

「あ、待って~、みわわ~」

 私は、ブサイクだ。しかも、ちょっとふっくらしている。

 細い強子姉がからかうことも、よくある。

   4

 そんなまったりとした日々を送っていたある日の夜。

 ゴオン!

 轟音と共に私は目覚めた。

「何の音……?」

 音は、隣の強子姉の部屋から聞こえた。強子姉になにかあったのかと心配になった。

 私は暗くて怖いのを必死で我慢した。一歩一歩進み、自分の部屋のドアを開けた。一旦、廊下に出る。

 私と強子姉の部屋は隣で、壁一枚挟んだだけなのだが、廊下からでないと入れない。

 腕を伸ばし前方を探る。

 ガッ!

「痛っ!」

 指先に触れているのは、紛れもなく強子姉の部屋のドアの取っ手だ。

 突き指してしまった。

 とりあえず指が痛むのは置いといて、強子姉の部屋のドアを開ける。

 強子姉の部屋も暗かった。

 強子姉は寝ているようで、ドアを開けたら、きっと安心できる光はなかった。

 暗い部屋で、いったい何が起きたのだろう。

 恐怖は現在進行形で続いている。

 私は電気を探し当て、スイッチを押した。

「……!」

 その時、私が見たものは、今までに見た映画のどんなグロテスクなシーンよりも勝るものだった。

 強子の首が……ない!

 姉の頭部が壁にめり込み、首から下はベッドに横たわっている。

 刹那、いつも私を恐怖や孤独から救ってくれる光が、絶望の光となって私を貫いた。

「お姉ちゃん!」

 私は涙をポロポロ流しながら強子姉の頭部から出そうとした。

 幸い、出血はしていないようだ。

 壁はベニヤ板だろうか。

「死なないで! 死なないで!」

 深夜の静寂の中、幼い私の高い声が、空気を裂いて響く。

 バキバキ……ボコ。

 という最後の強烈な破壊音で強子姉の頭部を救出した。

 学校は歩いて一時間のところにある。

 ド田舎のため学校の生徒数は少ないわ、遠いわで四苦八苦なのだ。

 同級生からも「みわわ」と呼ばれている。

 姉が私をみわわと呼んでいるところを入学初日に見られ、全校三十六人なのでその話はすぐに伝わった。

 あの子が誰々を好きだとかあの子とあの子が付き合ってるとかそういう話は村中に広まる。

 悲しいことに、ド田舎にプライバシーはない。

 私にもそういった噂を聞くことがある。

 特に強子姉に関しては。

 友達には

「可愛くて優しくて思いやりのあるお姉ちゃんがいて、羨ましい」

 こう見えているらしい。

 いや、真実を知らないとは。知らぬが仏に越したことはないだろう。

 突然、手紙をもらったことがある。

 私にかと思ったら

「強子先輩に渡してください」

 ときたもんだ。

 とにかく人気のある姉なのである。

 シスコンって皆が知ったらどうするんだろう。いや、もうすでに知られているのかもしれない。

 私が強子姉に手紙を届けに行くと、

「わたくしのかわゆい妹、みわわから手紙!?お姉ちゃん嬉しくて泣きそうだわ~」

 強子姉が私のスカートのポケットから素早い手つきで手紙を取ると、

「なんだ。みわわからの手紙じゃないの!? つまんなーい。

 それより、みわわともふもふしたい~」

「学校でしないでよ! 絶対! 変態姉妹と思われるからね!」

「なによそれ。お姉ちゃんはただみわわを愛してるだけなのに~」

「捻じ曲がった愛はいらん」

「あ、待って~、みわわ~」

 私はブサイクだ。しかもちょっとふっくらしている。

 細い姉がからかうこともよくある。

 そんなまったりとした日々を送っていたある日の夜。

「ゴオン!」

 轟音と共に私は目覚めた。

「何の音……?」

 音は、隣の兄の部屋から聞こえた。

 私は暗くて怖いのを必死で我慢して一歩一歩進み、自分の部屋のドアを開け、一旦廊下に出た。

 私と姉の部屋は隣で、壁一枚挟んだだけなのだが、廊下からでないと入れない。

 腕を伸ばし前方を探る。

 ガッ!

「痛っ!」

 指先に触れているのは紛れもなく兄の部屋のドアの取っ手だ。

 突き指してしまった。

 とりあえず指が痛むのは置いといて兄の部屋のドアを開ける。

 兄の部屋も暗かった。

 兄は寝ているようで、ドアを開けたらきっと安心できる光はなかった。

 暗い部屋で、いったい何が起きたのだろう。

 恐怖は未だ現在進行形で続いている。

 私は電気を探し当て、スイッチを押した。

「……!」

 その時私が見たものは、今までに見た映画のどんなグロテスクなシーンよりも勝るものだった。

 強子姉の首が……ない!

 姉の頭部が壁にめり込み、首から下はベッドに横たわっている。

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