一緒に寝るとき強子姉は時々面白がって枕を隠す。それでなにをするかって、
「みわわのにおい、いいにおい~」
変態そのものだ。それだけじゃない。
明りを消してさあ寝ようと思って頭を下ろすと枕がなくて、顔の上に枕を載せる悪戯をするのだ。
今日は疲れた。すぐに寝られた。
強子姉は寝ただろうか。
9
今日は学校がお休みなので、珠理と遥と遊ぶ約束をしていた。
「私も忘れないでね~」
強子姉もついてくる気満々だ。
まあ、いつもの展開だから、気にしない。
それから、強子姉が自転車の後ろに乗るのも当たり前になってきた。
強子姉が運転を拒むのも、いつものこと。
理由は、私が後ろに乗ったら重くて強子姉が運転しづらいから。
強子姉の怪力があるから別に問題はないのだけれど強子姉が
「みわわ重い~。豚あ~」
という超失礼なセリフで強引に私を前にやったことから始まった。
珠理の家まで自転車で三分。ご近所さんだから仲がいい。
私たちの住んでいる村は自転車で三分というと「お隣さん」になる。
強子姉を乗せて走っていると強子姉は楽しそうに体を揺らす。
「もう強子姉、バランス取れないから、おとなしくしてて!」
私が半ば本気で怒ると
「みわわ怒っちゃいやーん」
本気で反省してないだろ。じゃないと、体をクネクネさせない。
「強子姉、私にしがみついてて!」
「ほーい」
おとなしく私の腰に抱きついた強子姉は、体まで預けている。
「しがみつきすぎ! べったりくっつきすぎても、暑いんじゃ!」
「もう、みわわったら、文句が多いんだから~ん」
もう、困ったちゃんねぇ、とばかりに言う。
表情は見えないが絶対に反省している顔ではない。
「誰のせいじゃ、誰の!」
「怒らない~。ほら、もう見えた。珠理ちゃんち。速い速~い!」
私の腰に回した手を興奮したのか外して、話しながら手を広げて喜ぶ。
幼稚園児か。
強子姉は子供っぽいところがあるから、とても天才に見えない。
本気を出すとすごいんだろうけど……。
木々を抜ける。どの木も、葉っぱがわんさかついていて、日陰になる。桜が葉桜になる季節。涼しくて気持ちがいいが、ちょっと切ない。
毛虫はまだ発生していないようで、安心できる。だが、小さな虫がブンブン飛び回っていて、自転車を漕いでいると顔に当たる。
虫が小さすぎて、強子姉なんか
「目に虫が入った~」
文句を垂れている。
自転車を珠理の家の車庫に駐めると、叫んだ。
「珠ー理ちゃん!」
ド田舎なので、インターホンを押すより叫んだほうが早い。
「いらっしゃい、みわわ~、……に強子さん?」
少し驚いていた。別に強子姉が来るのが珍しいことではないが、やはり妹の親友と遊ぶのは珍しい。
「お邪魔しまーす」
私は通るように、大きな声で言った。強子姉も同じ。妹の親友の家なのに自分も同じように、違和感を感じさせない。
靴箱が小さくて玄関が広い。その代わり、玄関に履物がいっぱい。自分以外の靴を踏みそうになる。
家に上がろうとすると姉が横から手を繋いで一緒に右足を出す。
珠理ちゃんにはびっくりさせた。強子姉の甘えぶりは日本一だ。
「ちょっと強子姉、なんで私と一緒に家に上がろうとするのよ」
「えー、いいじゃん。みわわの親友は私の親友よ」
口を尖らせていう。
可愛らしい仕草に見える。思わず許してしまう。
「その、人のものは俺のもの的な考え、なんとかならない?」
「いつ見ても変わらないねー、珠理ちゃんちも」
強子姉は家に上がった上に、キョロキョロ回りを見ている。初めて来る家でもないのに。
いや、だからか、ちゃっかりしている原因は。
「人の話、全然、聞いてないし!」
珠理は苦笑いだ。
珠理ちゃんちのご両親は、農作業でいない。
「相変わらずね、みわわのお姉ちゃん」
表情は怒っているのでも悲しんでいるのでもない。
珠理ちゃんは強子姉に好印象を持っている。どちらかというと嬉しそうに話している。
「まあね。でも、憎めないのよね。天然だし。強子姉は得だよね」
「確かに、そうだね。強子さんのこと嫌いな人間なんて、この辺じゃいなさそうね」
「珠理ちゃん、みわわ、早く上がっておいで~」
強子姉はズカズカ、よそのうちの階段を上る。
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